Interview 4 ドイツでポスドクから民間企業へ

海外で活躍されている日本人女性にインタビュー、今回はドイツでポスドクを終え、民間企業で日本市場開拓業務をされている加藤千春さんにお話を伺ってきました。

加藤千春さん PROFILE

日本の大学卒業後渡独。ポツダム大学でドイツ語を学んだ後 ベルリン自由大学で生物学の学士・修士過程修了。卒業後ボン大学に移り博士課程修了、助手として勤務。2014年から産業用掃除機等を製造するドイツ企業に入社、国際営業部にて日本市場開拓を担当。ボンに在住、月2回の本社オフィス出社時以外は自宅で仕事をしている。

OrangeCareer Nakaishi(以下、N): 現在decontaというドイツの会社にお勤めということですが、どのような会社ですか?

加藤千春さん(以下、加藤)アスベスト除去をする機械など、環境に関連した機械を作っている会社です。

N: 国際営業部ということですが、日本市場を担当されているのですね。

加藤: はい。日本進出のための市場開拓を担当しています。関連する会社に営業の電話を掛けたりしていましたが、それだと効率が悪いのでまずはJETROさんを通じ日本で展示会(産業交流展2015)に出展したりして、まずはネットワークづくりから始めています。

他には会社の宣伝リーフレットや技術資料などの翻訳をしたり、DTPで和文の資料を作ったりなど、仕事は多岐にわたっています。

N: 同じチームには何人いますか?

加藤: 7人いて、日本市場の担当は私一人です。他にブラジル人が2人、イタリア人、英語ネイティブのスタッフ、トルコ人、ポーランド人が各1人でそれぞれがスペイン・ポルトガル市場、イタリア、英国、トルコ、ポーランド市場の開拓を担当しています。

N:  インターナショナルなチームですね。通常はホームオフィスで仕事をされているということですが。

加藤: 社長がかなりフレキシブルな方で、私のようにホームオフィスで働いている人や、子供がいる人はハーフタイムで働いていたりと、各自に合った働き方が認められています。月に2回はミーティングや工場の製品を確認しにオフィスに出社しています。

N: 仕事で苦労されていることはありますか?

加藤: いきなり製品の営業をして下さいと言われても厳しいですし、普段日本語を使っていないので、日本語で知らない相手に電話営業をするのは苦手だったのですが、効率の問題もあってまずはネットワーク作りに重点を置くことにしました。日本ではNGOやNPOが大きなネットワークを持っているので、そこにコンタクトをしたり、法律を作る側とも話をしたいのでJETROさんを通して省庁に働きかけるというようなことをして、営業というよりはアスベスト除去の重要性の説明などからネットワークをつくることにしました。

後は、日本で社会人としての就労経験がない上に、職場で日本のビジネスマナーを教えてくれる先輩がいないので、全部自分で学ばなければならないのが大変でしたが、元々勉強が好きなので、ひとつひとつ学んでできるようになっていくのは面白いです。

N: 現在の仕事はどうやって見つけましたか?

加藤: 日独産業協会(DJW)という求人・求職サイトで見つけました。環境に関連する仕事がしたかったのと、電子顕微鏡を扱ったりと理系のバックグラウンドの条件もあって、うまくマッチしました。

 

N: その前はずっとドイツの大学にいらっしゃったのですよね。

加藤: はい。語学コースから始め、大学で生物を専攻し、博士論文を出した後もしばらくポスドクとして大学に残って、博士課程及びポスドク期間の5年間はお給料をもらいながら助手として働いていました。

N: 大学にそのまま残ろうとは思わなかった?

加藤:ドイツで研究者として職を確保し続けるのは厳しいんです。特に女性は、いわゆる男女格差のようなものはないのですが、例えば出産や子育てで一旦研究を離れてしまうと、研究は日々進みますので数年後に戻るとなると大変なのが現状です。それでも上の方のポジションにいる女性の研究者がまだまだ少ないので、最近は最終的に同じ才覚のある男女がいれば女性を選ぶ傾向はありますね。男性のポスドクは男性差別だといっていますが…。

とにかく理系でもアカデミックな分野で仕事を続けるのはドイツ人でも大変です。3‐5年のスパンで地道にプロジェクトに関わり、その都度新しいプロジェクトを始めなければいけないし、プロジェクトによって拠点を移すことになったりと、不安定なんです。特に私のような外国人にはドイツ語や英語という面でドイツ人に劣るので、不安がありました。

例えば、研究申請を書き始めて先輩に見てもらったのですが、先輩も同じような問題を抱えていて、不安定で忙しい毎日を送っていて私の論文や研究申請が教授の元に行く前にどこか先輩の机で止まっているような状態で。研究者として残っても先がわからない、という不安が大きかったですね。

N: 厳しい世界ですね。そもそも、なぜドイツに?

加藤:元々海外に出たかったというのがあります。英語が苦手だったので、苦手な英語圏に行くよりは他の言葉を一からやった方がいいのではないかと思いました。音楽など、ドイツ文化には興味がありましたし、日本で大学生だった時にドイツに行く機会があって、楽しかったので。

 N:  大学を卒業して海外に来て、また別の分野の大学に入り直し博士課程まで終えるというのは非常に長い道のりで大変だったと思いますが、日本へ帰りたいと思ったことはなかったですか?

加藤: なかったですね。好きでやっていることだったので。

最初はドイツ語もまだまだ未熟な中、論文や研究に追われ、ストレス性胃炎になったりゼミの途中に涙が止まらなくなってしまったりというようなこともありました。今では笑って話せますが(笑)

ポスドクを終えてこれからの事を考えたときに、アカデミックな分野なら日本の方が仕事を見つけやすいのではないかと考え、日本の某大学などに応募書類を出したことはあります。ただ、立ち止まって考えたときに、やはり海外・ドイツにいたいという思いが私のベースになっていて、ドイツで就職活動をすることにしました。

N:  ドイツで暮らす、ということが優先順位の上だったわけですね。現在ドイツ生活が17年ということですがこれからもドイツでやっていこう、と思っていますか?

加藤: 生活の拠点がここになってしまって、友達とかネットワークがここでできてしまっているので、逆に今、日本に帰る勇気がないです。

それに、ドイツの方が楽です。人間関係にしても、お金がすべてじゃないという考え方も。例えばお給料がそんなに多くなくても、それより他に大事なものがあるという考え方ですね。社会保障がしっかりしていますので、税金や社会保障費は高いですが老後の蓄えをあまり心配しなくてもいいし、(失業や病気など)何かがあっても大丈夫というのはあります。大金を持っていなくても、心に余裕を持っていられるというか。

N:  その辺はドイツでの暮らしのメリットですね。逆にマイナスに思う事は。

加藤: ベルリンにいたころは冬が長くて寒くて大変でした。ボンに移ってからは冬が短くなって良いですが。それと、最初の頃は日曜日にお店が閉まっているのが不便で仕方なかったのですが、慣れてしまえばなんてことはないです。後は電車代が高いですね。車社会なので、電車代が高いのかもしれませんね。

N: 仕事の面でドイツで働くメリットはどうですか。

加藤: 人間関係と、フレキシブルな所ですね。就労一つにとってもホームオフィスやパートタイム勤務など、色々と融通が効くというのもあります。

人間関係でいうと、ドイツ人は職人肌でバカ正直。できないことはできないというし、ヒエラルキーはあまりないし風通しは良いです。喧嘩や口論になってもすぐに忘れるなど後腐れがないです。

N: 逆に仕事でしんどいと思う所は。

加藤: 私の場合、仕事で日本とドイツの間に挟まれているので、例えば日本から問い合わせが来たら日本の場合24時間以内に何らかの回答をするのが普通だと思いますが、ドイツ人は時間がかかります。最悪の場合、そのまま休暇に行ってしまったりで何日も待たされるケースもあります。そうしたときに、日本側に申し訳ないですね。

それと、ドイツ人は口で言わないとわからないので、日本人的に雰囲気で感じて欲しい場面でも、そういうわけにはいきません。それを期待してしまう辺りがまだまだ自分は日本人なんだな、と思います。

 

N: ビザはどうされていますか?

加藤: ドイツの永住ビザを取りました。研究者として専門知識を持っているという事で、博士号を取ってから申請しました。基本的には5年間働いて税金を納めればビザをとれるようになっています。私の場合は就労期間が4年だったのですが研究者ということでわりとすんなりとれました。

N: 海外で就職しようと思っても企業はすでに就労ビザをもっているひとを優先しますから、有効な就労ビザを持っていると有利ですよね。とはいえ日本と違って新卒採用という制度がないと、海外の大学を出ても就職活動が大変だと思うのですが。

加藤: そうですね、理系の研究者はまたちょっと違うのですが、文系などだと大学在学中にインターン、企業研修をして経験やネットワークをつくっていくのが大事です。

日本だとコネクションというとネガティブな印象ですが、ドイツではコネクションは「ビタミンB」 (ドイツ語のコネクション「Beziehung」のBと掛けて) といわれ、重要なものとして捉えられています。インターンなどでコネクションをつくったり経験を積むことは大事だと思います。

 

N: これからの展望は。

加藤: 今の会社でやっとネットワークができてきたところなので、もう少し今の所で頑張ってやっていきたいと思っています。まだ今の仕事の上で自分の課題があるので、仮にこの先転職するとしても、その課題を片付けてからと思っています。

N: 今後海外で働きたいと思っている人へ何かアドバイスがあればお願いします。

加藤: 自分が何をしたいのかわからないという状態に海外に出るのもありだと思います。

でも目的がはっきりしていれば 模索する時間が短いので早くゴールに近づける。例えば大学を卒業して数年間働いてからドイツや海外にきて大学院に入って、修士号を取ってから就職というのパターンはいいと思います。ドイツの大学卒業の場合、2年間働いて税金を納めれば永住ビザも取れるということですし。

思うようにいかなかったとしても、プランB、プランCを用意しておけばよいし、ダメだと思ったら日本に帰ればいい。昔に比べ簡単に海外に出たり日本へ帰ったりできるので、とにかく出てみればいいと思います。

 

(終)

 

インタビュアーコメント:

ドイツで一からドイツ語を学んで大学に入りなおし、博士課程まで終えた加藤さん。最初は胃炎に罹るほど、慣れない土地で新しい専門分野での言葉など、苦労は並みの物ではなかったと思います。それでも海外、ドイツで暮らしたい、働きたい、という思いをベースに長年携わった研究を離れた後も、民間企業でやりがいのある仕事と自分に合った働き方を手に入れました。自分は何がしたいのか、その根本がぶれることなく努力をし続けた結果だと思います。これからも日々ステップアップしていく加藤さんを応援しています。

Interviewed by: Natsu Nakaisihi (Orange career)

Date of Interview : 05 April, 2016

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この記事の著者

Natsu NakaishiOrange Career 代表

大学卒業後日本で就職し、2004年にベルギー事務所へ赴任。ベルギー国内でのキャリアアップを果たし、イタリア事業所の部署スタートアップに抜擢される。並行して海外キャリア12年の経験を活かし、海外で働きたい女性のための情報サイト Orange Careerを立ち上げる。
英語圏の滞在経験ゼロから英検1級‣TOEIC950点取得、フランス語DELF B1他、オランダ語・イタリア語習得のマルチリンガル。

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