
今回インタビューに答えて下さったのは、イタリア在住の人気ブロガー、ディ・イエンノ元子さん。
日本でマネージメントなどのキャリアを積んだ後に、一般企業への就職が非常に困難なイタイリア・フィレンツェへ。お話の中に、キャリアが活かしにくい環境でも見事に就職に成功したヒントが隠されています。
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Di Ienno (ディ・イエンノ)元子 さん Profile
大学卒業後、貿易会社で輸出入業務、営業、マネジメントを経験し、転職した会社で2年で赤字部門を黒字化。大手銀行、大学で文科省のプロジェクト立ち上げなどを経験後、2013年よりイタリア・ピサ在住。ピサ大学のイタリア語講座を修了、ネットでのビジネスや添乗員業務を経て、現在フィレンツェの革製品の会社Francesco Lionetti社勤務。イタリア情報サイトToscanaTrip(トスカーナ・トリップ)、個人ブログ「それでもイタリアなワケNew! inトスカーナ」運営。
Francesco Lionetti
Via della Spada 48, 50123 Firenze, Italy
TEL +39 0552678877
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Orangecareer Nakaishi(以下、N): まず今までのキャリアヒストリーを教えていただきたいのですが、学校は日本で卒業されたのでしょうか?
デ・イエンノ 元子さん(以下、元子): 私は純粋な国産でして(笑)、留学経験もなく日本の大学を卒業して最初に木材の貿易会社に就職しました。輸出入関係の書類を扱う業務から途中で営業に移り、チームリーダーなどをやらせていただき10年程勤めました。その会社は色々な国籍の社員がいて、自分自身もカナダやイタリアなどへの海外出張もあり、そこで海外経験をさせていただきました。
その後お声を掛けて頂いて不動産や語学学校等を手掛ける会社に移り、一部門を任されたのですがそこが赤字で(笑)。2年で黒字化を達成し、利益を出す仕組みを作りました。
N : すごいですね!どのように黒字化を達成したのですか?
元子 : まずメインになる売りが1つしかなかったので、3つの柱を立てたこと、無駄を省き、利益が出たら次に投資しました。経営やマネージメント経験者がいない部署で、好きだからこれをやろう!という雰囲気だったので、少し苦労はしましたが。
黒字化を達成したことでその会社は退職し、都市銀行に転職しました。外国為替課でしたが、ちょっと自分には合わないと思い結局辞めることになりましたが。
N : なぜ合わないと思ったのですか?
元子 : 一般企業が加点主義とすると、その銀行は減点主義だったからです。一定のレベルを保ってミスをしないようにということよりも、100%よりさらに利益や成長を追求する加点主義の一般企業で営業を長く経験していた私には、合いませんでした。
N : なるほど。
元子 : その後、ある大学で文部科学省のプロジェクトを立ち上げる仕事をすることになりました。副学長や教授チームと共に大学の中で大学院生、研究員が日本から海外にもっと出て行って活躍できるように、学習内容の向上と海外との接点を作るプロジェクトでした。
N : 面白そうですね。プロジェクトが立ち上がった後はどうされたのですか?
元子 : 3年程でプロジェクトが立ち上がり、そのまま正社員になるお誘いを頂いたのですが、色々考えてプロジェクトの終了とともに辞めさせて頂くことにしました。
その後の転職の合間に3か月だけローマに滞在しました。一度も勉強だけのために海外に行ったことがなかったので、語学学校に通ったり知り合いを訪ねたり、それでピサにいる友人に会いに行ったときに今の夫に出会いました。
N : すごく偶然の出会いだったのですね!ちなみになぜイタリアだったのですか?
元子 : 留学がしてみたかったのですが仕事で長く使用していた英語は語学学校に行く必要もないので、仕事で少し絡んで出張の経験などでいい印象を持っていたイタリアに決めました。
N : なるほど。でもご結婚が決まるまで別の仕事をされていたのですよね。
元子 : はい、ある企業のマネージメントスタッフとして、業績管理や運営業務、お客様のカウンセリングをやっていました。結局結婚が決まってイタリアに来ることになりました。
N : ここでいよいよイタリアのお話になるのですが、これまでかなり転職をして色んな経験をされているのですね。
元子 : そうですね、そのつもりはなく長く勤められることを望んだのですが、合わないと気が付いて辞めたりしてしまいましたから(笑)。結局、会社は相性ですからね。他の人には合っても私には合わなかったというだけで。
N : その通りですね。ところでイタリアに来てどの位でしょうか?
元子 : まだ3年半なんです。
N : 意外です!イタリア語もお上手でもっと長いのかと思っていました。
元子 : イタリアとは取引や出張で何年も関わってきたせいもあるかもしれません。
N : イタリアに来た直後は何を?
元子 : イタリア語がまだサバイバルレベルだったので、ビジネスで使えるイタリア語を身に着けたいと思い、ピサ大学のイタリア語講座を受講しました。日本にいた頃取得したPCに関する資格を使って、英語サイトの 不具合やアクセシビリティチェックなどネットの仕事をしたりしていました。それから日英の翻訳などを時々請負いました。
それと並行してイタリアは観光業がメインなので、イタリアの添乗員の資格を取って添乗の仕事も始めましたが、まだ大学が終わっていないのと、シーズンによって波があるので本業にはできないという思いがあり、大学の講座が修了する頃に就職活動を始めました。それで昨年ここ、Francesco Lionettiに就職が決まりました。
N : それにしてもよく短期間でそこまで…3年の間で忙しいですね!
元子 : ビジネスでも新規事業の成功は、最長でも3年の間に結果を出します。1年目は添乗員資格、2年目に大学の講座を修了して語学レベルを上げ、3年目に就職。今の所順調です(笑)
N : イタリアで仕事を得るのはなかなか大変だと思いますが、就職活動はどのようにされましたが?
元子 : イタリアはネット応募よりも足で見つけます。履歴書をもって直接渡しに行きましたね。特に、レストランやホテルなどではなく、一般企業となるとすごく門戸が狭まるんですよね。
ただ、イタリアってお店などでちょっと話しただけの人に、仕事を探しているというと「じゃあ知り合いに店やっている奴がいるから会ってみる?」っていって連れて行ってくれたり、というようなことはよくありました。そういった機会を得るためにもイタリア語のスキルは大事だと思います。
N : 人との関わり方はやはり日本とは違いますよね。
元子 : それから添乗員の資格があったので、旅行会社で添乗員や、土産物屋さんなどでプローバ(正式に雇われる前の使用期間)をやってみたこともありますが、イタリアのお給料レベルはとにかく低くて新卒だと日本の半分くらいですし、もちろん日本で貰っていたような給料がもらえるとは思っていませんが外国人という事で足元を見られることもあって。これならフリーランスで添乗員をやった方がいいかな、という感じでした。
N : イタリアは職を得るのも、お給料も厳しいですよね。
さて、現在お勤めのFrancesco Lionettiについてなんですが、どういう会社ですか。
元子 : 現社長の祖父が銀行を作った人でして、その銀行を売って1900年代に貿易会社を作りました。革や布、機械などを扱っていましたが2代目社長の後半あたりから革を専門にするようになりました。現在いくつが工場がありまして、ホテルの室内調度品の製造をメインにしています。
N : ということはこのカバン製品などはメインではなく事業の一部なんですね?
元子 : そうです、全体の1割位ですね。ホテルの調度品で革のミラーフレームとか椅子、ゴミ箱なんかがメインです。後は美術館の中のミュージアムショップなどにも製品を卸しています。どちらかというとイタリア国外のホテルやミュージアムがメインのお客様ですね。私もここでお客様がいらしたときは販売員の仕事をしていますが、いないときは輸出関係の書類作成と、英語圏と日本向けの営業の仕事を行っています。
N : 元子さんが入社する前は日本人スタッフがいなかったのですよね。日本向けビジネスが増えたのでは?
元子 : そうですね、すごく増えました。毎月、売り上げがどれだけ増えたか、新規顧客などを統計にまとめて社長に見せています。イタリアではその位自己アピールしないとお給料も上がっていきませんので(笑)。
それから店の中の在庫も以前はあまり正確に管理されていなかったので、数量を管理して売れ筋を分析したりしています。私が入社するまでバッグは全社売上の5%位の部門だったので、手が回らなかったのかもしれません。これからは柱の一本に成長させていきたいと思っています。私の個人ブログや添乗員のサイトを見て、オーダーして下さる方もいらっしゃって有り難いですね。
N : 対日本だけでなく、カバンの売り上げ自体増えたのでは?
元子 : 増えましたね。これらの分析情報を根拠に、新しいモデルを提案したりして、実際にこのショルダーバッグなんかは新しく作ることになりました。
N : すごいですね。販売員の方でそこまで分析や統計を出す人はあまりいないと思うのですが。
元子 : そうですね。それもあって正社員にしてもらえたのかもしれません。最初試用期間で入った時は外国籍だし、社長もどうするか迷っていたかもしれませんが、入社一か月の間に数字の分析やこの会社の問題点や改善点などをまとめて提出しました。それで社長も今までのスタッフとは違うと思ったみたいです。イタリア人でも若年層の失業率が4割という中では、外国籍の私としては正社員のポジションを得るために必死でしたから(笑)
N : 素晴らしいです。そもそもイタリアの失業率がこれだけ高いのは何故でしょう?
元子 : やはりイタリアは法人税が高く人を雇うコストがすごく高いです。企業はなかなか人を雇いたくない、雇っても正社員にはしたくないというのが本音じゃないでしょうか。契約社員でも4年経ったら正社員にしなければならないので、4年後に解雇される人も多いです。さらに外国人を雇うと企業が払う税金がイタリア人以上にかかりますから、ハードルは高いです。
N : 元子さんはイタリア人の旦那様とご結婚されてビザの問題もなく、言葉の問題もないのに、ですか?
元子 : そうです。ですので何のつてもなくイタリアに来て仕事を探そうと思ってもかなり難しいですね。私もここの仕事を得られたのはラッキーでした。
N : イタリアで働いていて、良い事、悪い事は何でしょうか。
元子 : 良い点は、融通が利くことでしょうか。企業としてのルール、規律はもちろんあるのですが日本のようにそれが絶対ではなく、個人の事情や状況に合わせて融通を利かせてくれます。
それから、イタリアは褒める文化です。日本だと褒められることは少なく、良いレベルに達していても、もっと頑張れ、ってなりますよね。そのため、達成感や満足感を得にくく、周りのプレッシャーで焦ったり自分を卑下してしまう人が多いように思います。イタリアの場合は大したレベルになくても褒められて達成感を得やすく、それが次はもっとやってやろうというモチベーションにつながりやすいですね。
反対に悪い点でいうとやっぱり給料が安いこと、外国人なのでイタリア人とは同等で扱ってはもらえないこともあることです。これはどこの国でも同じだと思いますが…
N : そういうことを感じることがありましたか?
元子 : 社内的というよりは、社外で私と他のイタリア人スタッフで対応が違う人も中にはいました。アジア人、とくにフィレンツェ周辺では中国人を良く思っていない人が多いのでひとくくりにされることも時にはあります。
ただ、日本と比べるとやはりイタリアの方が精神的に楽です。日本だと「やらなければならない」という、義務感とか周りの目とかありますよね。でもイタリアなら逆にこんなお給料しかもらってないからできない、、とハッキリ言えます。
N : 生活面ではどうですか?
元子 : 難点は社会インフラが遅れていることですね。道路に穴があったり、インターネットはいまだにADSLが主流だったり、水道管の工事がすごく遅れていたり…。交通機関のトラブルや役所などの公共施設に行くとやたらと時間がかかるのもそうですし、生活面では忍耐が必要ですね(笑)
N : 実感しています(笑)。良い点はどうですか?
元子 : 日本より人に接する機会、自然に接する機会、季節を感じる機会が多いように思えます。テーマパークなどの娯楽は少ないですが、ちょっと行けば海や山があり、季節ごとのお祭りがあったり。それから、食べ物が安いです。
N :日本に比べると、特に野菜や果物がすごく安いですよね。
元子 : そうですよね。その代わりカタツムリがついていたり泥がついていたりするので、自分で判断して選ばなければいけないというのはありますよね(笑)
N : 最後に海外に出たいと思っている人へアドバイスがあればお願いします。
元子 : 優先順位をつけることですね。とにかくその国で暮らしたいのか、その国でしたいことがあるのか。とにかく暮らしたいというのであれば勢いで来て、どんな仕事でも受け入れられると思いますが、仕事をある程度選びたいのであれば、ちゃんとその国の言葉を日本で、母国語で、ある程度勉強しておくことが大切だと思います。言葉ができれば仕事の幅も広がりますし、イタリアのようにただでさえ職を得ることが難しいような国ではその国の言葉ができることが前提ですから。
それと、日本である程度仕事の経験を積むことですね。生活は人間ある程度順応できると思うのですが、仕事を得るのは大変です。日本で仕事をしていなかった人が海外に来て得ようと思ってもそれは難しいです。
留学をしている若い人の相談を受けることがあるのですが、考えが明確でない人が多いんですよね。どんな仕事でもいいからイタリアに残りたいのか、それとも仕事を選びたいのか、それによってやることは変わってくると思います。
N : 私も20代前半のころはかなりブレていたと思いますが(笑)、自分にとって何が一番大事なのか、優先順位をつけるという事は大事な事ですよね。
(終)
インタビュアーコメント:
自国民の若者でも就職することが大変なイタリアで見事就職に成功し、すぐにどうやったら売上が上がるか、在庫などの業務の効率化を提案し、今は社長の信頼も厚い元子さん。こうした視点をもって仕事に接し雇い主や上司に積極的にアピールし、外国人を雇うリスクを負ってでも雇いたい、と思わせることはとても重要です。日本でしっかりとキャリアと経験を積んできた元子さんだからこそ、とも言えますが、経験が少ない人でも参考にできることがあるのではないでしょうか。
Date of Interview : 23 May 2016
Interviewed by : Natsu Nakaishi ( Orange Career )
自分も海外で働いてみたい!海外で就職したいけど、どうすればいいのかわからない!という方、OrangeCareerでは対人・またはスカイプでのコンサルティングを行っています。詳しくはお問い合わせ下さい!
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