海外で働く

Interview 17 ドイツでカフェを経営

大変お待たせしました!

海外で活躍する日本人へのインタビュー企画、今回はドイツのフランクフルトで自分のカフェを経営するC.A.さんです。C.A.さんのカフェ、Martellaでコーヒーとケーキを頂きながらお話を伺いました。

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C.A さん Profile

短大卒業後、添乗員として国内・海外ツアーの添乗や日本国内で外国人観光客・出張者の添乗を行う。地元の新聞の募集記事がきっかけでドイツ・フランクフルトの日系食品輸入会社に転職。その後現地で日系旅行手配会社に転職し、勤務する傍ら週末にカフェでアルバイト。休職してパリの製菓学校で学んだ後、フライブルクのホテルやお菓子屋勤務。フランクフルトに戻りカフェ勤務を経て、2015年独立し現在フランクフルトでカフェMartellaを経営。
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オレンジキャリア 中石(以下、N) : ケーキ、とても美味しいです。抹茶を使ったケーキやドリンク、ほうじ茶ラテなどを置いていらっしゃいますが、日本風のカフェなんですか?

C.A.さん(以下、A) : いえ、当初の目的はイタリアのマルテッラという焙煎所のコーヒーを売る事を目的としていて、日本風なお菓子を置く予定はなかったんです。ただ、私は以前フランスでフランス菓子の勉強をしていたのですが、段々と日本人のお客様が増えるにしたがって、「ロールケーキはないですか」とか、「ショートケーキはないですか」というお問い合わせを頂くことが多くなってきました。それで、日本のお菓子も置くようになりました。

N : お一人でケーキを作って、カフェをやるのは結構大変ではないですか?

A : ケーキはお客さんがいない合間合間に作りながらやっているので、今のところなんとかなっています。

N : こちらのカフェはいつオープンされたのですか?

A : 2015年の8月です。

N : では今までのキャリアヒストリーをお聞かせ下さい。

A : 日本の短大を卒業した後に、添乗員を5年程やっておりまして、その後ドイツに来ました。ドイツに来たきっかけは、フランクフルトで食品を輸入している小さな会社がありまして、そこに採用されたためです。

N : 添乗員の仕事とはまた違った業種ですが、何かきっかけのようなものはあったのですか。

A : 日本で働いている時も、外国からのお客様をご案内する機会もありまして、そのうちにいつかヨーロッパで働いてみたいという思いがありました。19歳の時にスコットランドに留学をしていて英語はできたので、英語を使った仕事がしたいという希望もあり、たまたまそのドイツの会社が募集をしていることを知って応募しました。そこで2年働きました。

N : その会社は日本で募集をされていたのですか?

A : そうです。私は北海道出身なのですが社長が北海道の人が好きで、北海道新聞に募集を載せていました。それで応募して、採用していただいて、労働ビザを会社が手配してくれました。

N : なるほど。ヨーロッパで働いてみたかったということですが、詳しくお聞かせください。

A : 色んな経験をしてみたい、色んな人に会ってみたいという思いが強かったですね。

N : そこではどのような仕事をされていたのですか?

A : 販売や会計などの業務を担当していました。2年契約で、契約が満了してからフランクフルトの日系の旅行手配会社に転職をしました。そこには6年程いました。

旅行会社で働きながら週末にカフェでアルバイトをしていました。最初はサービス、途中からパン作りをするようになりました。それが楽しくて、もっと本格的にパン作りやお菓子作りを学びたいと思うようになり、会社を休職してパリの製菓学校に入学しました。

N : ドイツからフランスに移ったわけですが、授業はフランス語だったのですか?

A : フランス語でしたが、自分でも勉強していましたし、講義には英語の通訳の方がいたので大丈夫でした。フランス語はもともと好きで、会社勤めをしている時から語学学校の夜間コースに行ったり、フランスに短期留学をしたりしていました。

N : そうなんですか!ちなみにドイツ語もお出来になるのですよね。

A : 日常生活するには支障はないです。ドイツ語はフランクフルトに来てから学びました。来た当初はできなくて、フランクフルトは英語でもなんとかなるのですが、旅行会社にいる時に徐々に学んでいきました。

N : 努力されたのですね。少し戻りますが、旅行会社ではどのようなお仕事を?

A  : 業種としてはランドオペレーターなので、日本から来るツアーの現地手配や緊急対応ですね。

N : 同じ業界にいたのでわかりますが、その会社は有名な日系大手ですね。現地で日本人を採用されていたのですね。

A : 今はわかりませんが、当時はそうでした。

N : それにしても、平日に会社勤めをして土日にカフェでアルバイトというのはかなり忙しかったのでは。

A : 好きなことをやっていたので、大変だとは思いませんでした。コーヒーも好きだったし。毎日会社で同じことをしていると段々と刺激がなくなってくるので、違う事をしてみたかったというのがあります。会社勤めも9時から18時であまり大変ではなく、平日夜に充分自分の事をしたり休息したりという時間があったので、週末は別のことをしたかったんです。その生活を一年位やりましたが、大丈夫でした。

N : パワフルですね! パリの製菓学校に入学した時には旅行の会社を休職したということですが。

A : 製菓学校のコースはインテンシブコースで週6日、朝から夕方までを1か月半、その後パリのパン屋さんでインターンシップをしながら語学学校に通って、トータルで3か月、その後フランクフルトに戻りました。

N : フランスのビザはどうされたのですか?

A : 3か月以内だと観光ビザで滞在できます。語学学校に通うことでインターンシップも問題なくできるようです。

N : なるほど。インターンシップやパリの暮らしはいかがでしたか?

A : とても刺激的でした。学校はお菓子のコースでしたが、パン屋ではクロワッサンやヴィノワズリ、バゲットなど、インターン生でもどんどん作らせてくれました。

N : フランクフルトに戻ってからは旅行会社に復職したわけですね。

A : そうです。ただ、2か月半程で退職して、転職しました。フライブルクのホテルのキッチンでデザート作りをするポジションでした。でも人間関係の難しさもあり、そこは2か月程で退職し、フライブルクのお菓子屋さんに転職しました。

N : お菓子屋さんはどういうお菓子を売っている所でしたか?

A : フライブルクはフランスの国境に近いので、典型的なドイツ菓子というよりは、フランス菓子に近いようなケーキを作っていました。例えばこの地方名物の「黒い森ケーキ」というのがあって、煮詰めたサクランボと生クリームをチョコレートのスポンジではさんだケーキなのですが、それがフランス版になってチョコレートムースをはさんだり。ドイツ菓子よりもちょっと洒落た趣向でした。

N : フランクフルトを離れ、フライブルクで働くことになったのは何か理由があるのですか?

A : たまたま見つかったのがフライブルクだったからなんですが、通常ドイツでお菓子職人になる場合は3年間の職業訓練期間があり、私のように外国の製菓学校で学んでお菓子が作れる、というだけでは雇ってもらうのは難しいのですが、フライブルクのシェフ達はフランスのように実力重視でした。それで雇ってくれたのがフライブルクのホテルだったりお菓子屋だったというわけです。

N : フライブルクはフランクフルトから電車や車で南に2時間位ですよね。その距離でもうメンタリティーは違うということでしょうか?

A : 全然違いますね。食べ物も違いますし。田舎でもっとリラックスしているというか、でも洗練されています。

N : フライブルクのお菓子屋さんにはどの位働いていたのですか?

A : 一年半位ですね。その後フランクフルトに戻り、カフェに就職しました。そこで2年間いたのですが、そこで自分は一人で働くのが合っているというと思い、独立することにしました。

N : 一人が合っているというのは?

A : 今までカフェやお菓子屋などで色んな国の人、多くの人と働いてきましたが、自分の好きな分野で例えばこのケーキは丸くした方がいい、四角くした方がいい、というような議論をするのが面倒になってきて(笑)。やはり美意識というのは人によって、国民性によって全然違いますから、意見が異なる事は多いわけです。それで段々と、自分が美味しいと思うものを自分の好きなように作りたいという思いが強くなってきました。

N : なるほど。国によって美意識が違うというのはわかるような気がします。

それでいよいよここをオープンしたわけですが、準備に苦労があったのでは。

A : そうですね、たまたまいい物件が見つかって、オープンまでに2か月で準備をしましたが、手続きなどを全部自分でやったので大変なことは色々ありました。

N : 内装もご自分で?

A : はい、壁の穴あけは友達に手伝ってもらいましたが。家具は全部蚤の市で買ったのでお金はあまりかけていません。

N : 蚤の市ですか?すごく素敵ですよね、このソファとか。全体的にテイストが統一されているし、蚤の市でここまで揃えられるとは・・驚きです。

 

N : 開業の手続きなどは法律なんかもありますし、かなり煩雑ではないですか。

A  : 大変というか、最初は何から始めていいのかわからなかったので、ドイツ人の起業コンサルタントにレクチャーを受けました。今思うと、これはなくてよかったと思うのですが…。開業するにあたりどういう手続きが必要かとか、いくら必要か、ビジネスプランの書き方や、5か年計画をつくり1年でどう利益を出すかとか、ですね。

N : 銀行でお金を借りるとなると、やはりそういったプランの提出が必要なんですね。

A  : それがですね、私は自分の口座がある郵便局で借りているのですが、郵便局では今までどれだけきちんと税金を払ってきたか、という基準で、この位なら貸せますよ、というガイドラインがあるんです。なのである程度の金額までは問題なく借りられたというのと、足りない分は結局銀行ではなくて自分の親に借りました。

N : 手続きの中で何が一番大変でしたか?

A : 段取りですね。色んな手続きを同時進行でやってかなければならないですし、他の人がいればここはこうした方がいい、というような別な意見を出しあって検討することができると思いますが一人だと行き詰ることはありました。

例えばエスプレッソマシンを、コーヒー豆を仕入れているMartellaを通してイタリアのメーカーから買ったのですが、イタリアから買うにあたって付加価値税登録番号(VAT番号)が必要なんですね。それを知らなくて、いざ購入手続きという段階で問題になって(笑)。それで急いで税務署に番号の申請に行ったのですが、すぐに取れるものでもなくて…。結局これは知人の助けを借りることができたのですが、今思えば、色々ありましたね。

N : 大変ですよね。開店してみてどうですか?

A : 今のところ順調です。平日はドイツ人のお客様が多いですが、休日は日本人のお客様も来ていただくようになりました。フランクフルトには日本人が結構住んでいますから…。

N : ミラノにこういうカフェがあれば足しげく通うんですが(笑)

ところでドイツに来てからどの位経ちましたか?

A : 13年位ですね。そのつもりはなかったんですが、思いがけなく長くなってしまいました。

N : ドイツ暮らしはいかがですか?

A : 可もなく不可もなく…、ですね。ここで死ぬ気はないのでいつかは日本に帰りたいと思っています。やはり日本が好きですし、家族も皆向こうにいますから。

N : そうなんですね。ドイツで暮らしていていいと思う事は何ですか?

A  : 他人をあまり気にしないので、人の目を気にすることがないですね。自分らしくいられるというか、やりたいようにできるというか。

N : そうですね、皆さん仰います(笑)。その辺は日本とは大分違いますよね。逆にデメリットはどうでしょうか?

A : 常に自分の意見を求められて、はっきりと意見を言わなければならないので、段々と自分が憎たらしい人間になるような気がします(笑) 気が強い人間になるというか・・

N : わかります!そうならざるを得ない部分はありますよね。

ドイツ人と働くのはどうですか?

A : そうですね、お菓子作りなどの世界は、「自分の好きな事だけやっていたい」タイプの人間が多いので、疲れます。職人の世界では特に、上下関係のしきたりが強くて上の人が絶対というのがありました。例えば自分の下の人間に洗い物をさせたりとか、私はそれはとても嫌だったので意見をしてぶつかったこともあります(笑)。

N : 会社勤めだと日本の会社より上下関係は緩い感じはしますが、職人の世界だとドイツは特に厳しそうですね。

A : 場所にもよるかもしれませんが、そうかもしれません。

N : さて、ご自分のお店ですが、今後の展望は。

A  : 最初から変わっていませんが、もっとこのマルテッラのコーヒーを広めたい、というのがあります。2年前の3月にローマに行ったときに、縁あってマルテッラの焙煎所を見学することができて、このコーヒーをもっと沢山の人に飲んでもらいたいと思いました。

後は、ある程度借金が返せたらもっとお菓子をやりたいと思っています。さらに上のレベルを目指してフランス菓子を学びたいと思いますし。

N : 将来的には日本に帰りたいという事ですが。

A : 北海道に帰って、母と一緒にカフェをやりたいですね。母も「作るという作業」が好きな人なので…。

N : 素敵です。ご自分のカフェをやるきっかけになったのは旅行会社時代の週末のアルバイトですよね。人生何があるかわからないものですね。

A : 本当ですね。カフェでアルバイトをする前はこういうことになるとは思っていませんでしたが。

N : 最後に、海外に出たいと思っている方にアドバイスがあればお願いします。

A : 目的を持つことだと思います。ただ何となく外国に来るよりも、これがやりたい・こうなりたいという目的があれば辛いことも乗り越えられますし、語学の上達も早いと思います。

N : ありがとうございました。

(終)

 

インタビュアーコメント: キャリアのスタートは全く別の道で、ドイツへも縁があって来て、社会に出たころは思いもよらなかった「今」。仕事をしながらのカフェのアルバイトから、自分の店を持つまでになるには並大抵のことではないと思いますが、Aさんは「好きな事だから」とさらりと言っていたのがとても印象的でした。そんなAさんだからこそ、煩雑な手続き、法律や言葉の違いを乗り越えてお店を開く事ができたのでしょう。

どこにいてもやっていける、国が違っても夢を叶えられる、自分で限界を決めないその姿は、皆さまにも一歩踏み出す勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

 

Date of Interview : 02 June 2016

Interviewed by : Natsu Nakaishi ( Orange Career )

ABOUT ME
Natsu Nakaishi
大学卒業後日本で就職し、2004年にベルギー事務所へ赴任。ベルギー国内でのキャリアアップを果たし、イタリア事業所の部署スタートアップに抜擢される。並行して海外キャリア12年の経験を活かし、海外で働きたい女性のための情報サイト Orange Careerを立ち上げる。 英語圏の滞在経験ゼロから英検1級‣TOEIC950点取得、フランス語DELF B1他、オランダ語・イタリア語習得のマルチリンガル。